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梅雨空の訓練復帰 [pilot]

その日の飛行場は梅雨前線の遠く北側。雨が降るほどではないが、雲は高めでべったり。前線が北上すれば雲も下がってきてやがて雨になる。その兆候はなかったが、大気がやや不安定傾向だった。出発を遅らせて、慎重に天候を検討。ナビゲーションほどの長時間の遠出には不向きだったため、空中操作の訓練に切り替えての出発となった。

3月の震災前から数えて、100日以上が経ってしまったが、地上での準備の成果もあってか、もたつく事もなく順調に訓練空域へ進んだ。2000ftで飛んで行く。雲はおおむね2500以上との事。150m以上離れている事になるが、これでも航空法で定める有視界飛行の条件に近い。雲の表面には、大きさを目測できるような目安になる物はない。ひたすらもくもくしているだけで、一目見ても、大きさ近さがわかりにくい。経験が少ないのでなおさら。

雲の底を上目遣いで確認しながら、あちこち他機を意識しながら、また、他機に発見してもらいやすいよう、着陸灯もつけて、雲の底に張り付いたまま飛んで行く。天気が悪いせいか、飛んでいる機体は少ない。雲よりも3-4倍遠い所に、地上。いつも空から見るだけの街が幾つも見える。地上では行った事のない遠い街も空から行くと一瞬。あちこちの街に、もっと滑走路があって気軽に降りられたらいいのに、残念だ。

訓練空域に近づくにつれて、前線から離れた。空にいる間は自分の移動速度も速いので、相対的に前線のスケールも小さく感じられる。雲はさらに高く、訓練にはまったく支障がなさそうだった。エンジンは、少しだるそうだったが、それは人間と同じで気温と湿気のせい。少しパワーが出きっていない感じ。それでも問題はない。

予定通りの時間に訓練空域に入って、失速飛行、低速飛行を一通り。細部のご指導もいただいたが、出来には満足。試験では、試験官に対してデモを行うように、演じるように、演目のように操作を行うのだそうだ。そのレベルまで、技量を維持するだけでなく、高めて、精度を上げて行かねばならない。おおむね、この程度でも多分OKなのだろうと思うが、これでもうOKと思ってしまえば、そこがピークになってしまう。もっと上手に、もっとスムースに、もっと安全に、もっと腕を磨かねば。

最後に教官にひとつだけデモをお願いして、観察と体験。スムースな演技に心を洗われた。さすがに、すばらしい。笑顔になってしまう。どこがすごいのか昔の自分にはわからなかっただろう事が、今はわかる。自分が腕を上げれば、もっともっと見える物があるはず。笑顔で帰路に。

帰路は、どんどん下がってくる雲に向って飛んで行く。正確には雲が低くなって行く方向に向かって飛んでいるだけだが。緑が美しい河原に近づいたあたりで、突然エンジンパワーをアイドルに設定され、抜き打ちで緊急着陸の模擬訓練。思えば、これは最初の数回を除いてはいつも抜き打ちだった。今回は、最良滑空速度 65kts への設定がおろそかになり、最初に無駄に高度を消費してしまったが、手順の方はOK。100日も飛ばなかったのに信じられないと思われるかもしれないが、しばらく飛べなかった間も、定期的に緊急操作手順を復習したり、模擬操作の練習をしていたのが役立った。飛び続ける限り、こういう部分は、ずっとずっと続けなくてはならないのだろう。そうだ、今思えば、いつでも降りる場所を意識しなくてはならないのに、それを忘れていたかもしれない。帰路、河原の緑の芝生を見おろしながら、あの辺なら降りられそうだなと思っていた矢先の抜き打ちだったのだが、それ以前は、あまり意識していなかった。

最後の方は雲の下に張り付いての飛行だった。行きに雲の高さを確認したあたりで、もう一度教官に確認してみたが、雲の高さはやはり2500ft以上との事で、出発時と変わっていなかったようだ。久々の進入経路は、少し自信がなかった。疲れていたのかも。それでも自分の思い込みでラフにやるのはいけないと思い、教官に確認しながら進入した。実際、慣れてくると、このくらいの部分はどうにかなるし、ある程度は、ある程度の高度、場所に達するまでに修正すれば、どうにでもなるという甘い誘惑もあるが、こういう部分での油断が、いつか事故につながるのかもしれない。気をつけなければならない。

着陸。滑走路を後にして窓を開けた。プロペラの音がうるさくなったが、風が涼しかった。蒸し暑い地上に戻ってきた事を感じた。
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